
社内でナレッジを残す難しさについて
投稿日: 2025-05-26 | カテゴリ: 雑談程度の差はあれど、どの職場にも作業マニュアルやノウハウをまとめた「ドキュメント」や「ナレッジ」が存在するかと思います。特に、SIerのような物理資産を持たないサービス業においては、これらの情報こそが唯一の資産と言っても過言ではありません。
今回は、そんな「ナレッジを社内に残すこと」の難しさについて、自分の経験をもとにまとめてみました。
ナレッジってなに?
まずIT企業に馴染みのない方や学生向けに簡単に説明すると、ナレッジとは、例えば以下のような業務情報を指します:
- ソフトウェアのセットアップ手順
- システム障害時の対処方法
- 定期的な保守作業の手順
こういった情報がドキュメント化され、次に同じ作業をする人が困らないようにするのが「ナレッジを残す」ということです。
私の所属部署では、十分なナレッジが残っていないケースが多く、作業をするにも人に聞くしかない場面が多々あります。
ドキュメントの形式は様々ですが、職場でよく見かけるのは次の順です:
- Excel
- テキストファイル(SIer職場のためか、READMEはほぼ見ません。)
- Word
- PowerPoint
個人的には、キャプチャ付きの手順ならExcel、テキストだけで済むものはテキストファイルがベストだと感じています。 WordやPowerPointは業務上ほとんど使っていません。
特にPowerPointは、上司への説明資料をそのままドキュメントに転用するケース以外では使うことは稀です。
なぜナレッジが溜まらないのか
以下に、私が思いついた「ナレッジが蓄積されにくい理由」を挙げてみました:
- 作成したドキュメントの内容が数ヶ月で古くなる可能性があり、作成のモチベーションが湧かない
- 作成しても上司に評価されるわけではなく、むしろ自身のタスクの進捗に悪影響が出る
- ドキュメントが共有されても特定の案件フォルダに埋もれ、他メンバーがそのドキュメントの存在に気づけない
- 間違った内容を書いて責任を問われるリスクがある
- ドキュメントに関する質問がドキュメント作成者に集中し、作成者の業務が増える可能性がある
このうち、2〜4はマネジメント層の意識と呼びかけで改善できると思っています。 しかし、1と5については根深い問題であるため、別途対策を考える必要があります。
《問題1》 作成したマニュアルがすぐに古くなる
たとえば、ソフトのセットアップ手順をドキュメント化しても、数ヶ月後にソフトのバージョンが更新されて使えなくなる……ということがIT業界ではよくあります。
「バージョンが変わっても、手順はあまり変わらないのでは?」と思う方もいるでしょう。 確かに、iPhoneのように設計段階から保守性が考慮されているプロダクトであれば、マニュアルすら不要なケースもあります。
一方で、中小企業が開発したソフトは話が別です。 私が経験した中で最悪だったのは、「外部ソフトのパスをハードコーディング」していたシステムです。 ソフトがアップデートされパスが変更されるたびに、コードの修正が必要になるという状態でした。
こういった状況は、そもそもソフトウェア自体の「保守性の低さ」に原因があります。 つまり、「マニュアルがすぐ古くなる」問題の本質は、ドキュメントではなくソフトウェア側の設計にあると言えるでしょう。
※「なぜSIerのコーディングは継ぎ接ぎになりやすいか」という点は、別の記事で取り上げたいと思います
《問題1》 ドキュメント作成者への負担増
これは「できる人に仕事が集中する」問題と似ているかもしれません。
根本的な解決は難しいのですが、対策としては、ドキュメントの冒頭に「作成日」と「この情報が古い可能性があること」、 「最新情報は都度確認してほしい旨」を明記することが考えられます。
なぜドキュメントを見ながら作業しないといけないのか?
「ソフトのインストールくらい、自分で調べてやればいいじゃないか」と思う方もいるでしょう。 私もそう思います。
しかし、ある程度の規模の会社になると、以下のような事情があります
- ソフトのインストールには上長の許可が必要
- 決められたバージョン、手順に従う必要がある
そのため、勝手にやると後で上司から指摘されるリスクがあります。 「マニュアル通りにやりました」と言えるように、ドキュメントを見ながら作業せざるを得ないのです
別の部署と自分の部署との違いについて
私の所属する部署では、ドキュメントがあまりにも残っておらず、人に聞くことでしか仕事が進まないことが問題視されています。 その一方で、同じ会社の別部署の友人に話を聞いたところ、部署での研修期間中に「ナレッジをまとめる時間」が設けられていたそうです。
ナレッジなんて殆ど持っていないであろう新人にそのような教育をする部署ですから、 その部署ではドキュメント類も充実しており、実際にナレッジファイルは数TBに達するとのこと(それはそれで探すのが大変らしいですが……)。
そんな環境で働いてみたいと、少し羨ましくもなります。
忙しい部署ではナレッジは残らない
たとえ「マニュアルはこのフォルダに保存」といったルールを決めても、実際に残るかは別問題です。 なぜなら、ナレッジを残すことによる“個人のメリット”がほとんど無いからです。
会社員(以下Aさん)が一番重視するのは「上司に評価されること」です。 そして上司が評価するのは「自分の指示に迅速・正確に対応してくれる部下」です。
Aさんが他チームに役立つ資料を作っても、上司がそれに気づかない限り、評価にはつながりません。 この構造が、ナレッジの蓄積を阻む一因になっているのです。
まとめ
記事を書いていて思いましたが、よくバイト先で「メモを取れ」と言われていたのって、今思えば職場側の怠慢だったのかもしれません。
アルバイトがやるような単純作業こそ、ドキュメントで手順を明文化し、「分からなければそれを見て」としておくべきです。
私もチェーンの塾講師のバイトをしていたとき、「今から言うことをメモしてね」と言われ、特に違和感なく受け入れていました。 でも、今考えるとあれって不思議ですよね。
ありがとうございました。